ポリアミン
自治医科大の早田教授はポリアミンは「健康長寿に役立つことがきちんと科学的に証明されている物質」であると数多くの文献で述べている。
ポリアミンは野菜類、きのこ類、穀物のふすま、胚芽、豆類、発酵食品に多く含まれる栄養素だ。[1]
我々人類にとって重要なポリアミンはスペルミン、スペルミジンであり、これらは最初精液(スペルマ)中の結晶として観察されたためその名がある。[2]
ポリアミンは細胞の成長因子であるが、(その極性等により)DNAの健全な維持(メチル化、非メチル化)を助けている他[3]、アンチオキシダントとしても働いている。[4]
ポリアミンが「健康長寿に寄与する」と言われることからも察しはつくが、加齢とともに体内のポリアミンは減少する。[5]
有名なマウス実験では高ポリアミン食を食べたグループでは年老いても毛並みが若いマウスのように保たれ、寿命も大幅に長かった。[6, 7]
つまりポリアミンの豊富な食事(野菜類、きのこ類、穀物のふすま、胚芽、豆類、発酵食品)を心がけることが長寿に繋がると考えられる。
世界の長寿エリア
ポリアミンの豊富な食材(野菜類、きのこ類、穀物のふすま、胚芽、豆類、発酵食品)を見ると明らかなのは、世界三大長寿エリア(フンザ、コーカサス、ビルカバンバ)における食生活の根幹とも一致するということだ。
ポリアミンの「長寿効果」
ポリアミンの「長寿効果」にはまだ謎な部分も多い。
現象として明らかなのは血中スペルミン濃度が高いと炎症系の蛋白質、LFA-1の発現が抑えられることであり[8]、これは動脈硬化防止に繋がる。
またスペルミンの代謝向上効果も「長寿効果」の一翼を担うかも知れない。
ポリアミンを摂取するとポリアミンレベルの恒常性維持機能が働きスペルミンの消費も早くなる。
スペルミンを代謝する酵素、SSATの活性が上がるとスペルミンがアセチルスペルミジンへと変換される過程でアセチルCoAが消費される。[9]
アセチルCoAが消費されるということはつまりβ酸化、およびTCA回路が活性化され、脂質代謝、糖質代謝、ともに向上することを意味する。
実際SSATを過剰発現させたマウスではインスリン感受性とグルコース代謝、脂質代謝が格段に向上した。[10, 11]
こういった代謝改善効果が長寿に寄与し得ることは間違いない。
オートファジー
いわゆる「長寿効果」をもたらすものの一つとしてオートファジーは少し前から注目を浴びている。
オートファジーとは細胞が自ら細胞内の不要な蛋白質や病原微生物を分解して排除する働きのことだ。
このポリアミンもまたオートファジーを誘発する物質として確認されている。
スペルミジンによるオートファジー促進効果は、酵母菌や線虫、ハエで確認された。[12]
そして最近では、人間でもスペルミジンを摂ることで(eIF5Aヒプシン化→TFEB発現→CLEARエレメント結合→)オートファジー賦活やB細胞の再活性化を図ることが出来ると考えられている。[13]
腸内細菌叢
ポリアミン増強で新しい分野はいま話題の腸内細菌叢由来のポリアミンである。
[図1] 細胞内のポリアミン代謝
The abbreviations used are as follows:
ODC, ornithine decarboxylase;
SAMDC, S-adenosylmethionine decarboxylase;
SSAT, spermidine-spermine-N-acetyl transferase;
PAO, polyamine oxidase;
AZ, antizyme;
SMO, spermine oxidase.
AZ inactivates ODC, increases polyamine efflux, and decreases polyamine uptake.
慶応大学は腸内細菌叢由来のポリアミンが「腸上皮細胞やマクロファージに作用して腸炎を防止」すると発表した。[14]
食事から摂るポリアミンだけで無くプロバイオティクス、プレバイオティクスがいかに大切かということが分かる。
こういった「内因性」のポリアミン産生とそれに関連した細菌株の特定と特許化は進んでいる。[15]
メチオニン制限食
ポリアミン食の「健康効果」との兼ね合いで注目したいのはメチオニン制限食の「健康効果」との相乗効果である。
メチオニン制限食はmTOR1経路を抑制し体内のポリアミンレベルを上げる。[16]
メチオニンを制限するとスペルミジンの生産が大幅にアップレギュレートされるという報告がある。[17]
つまりメチオニン制限食の「健康効果」においてもポリアミンによる裏付けがあるということだ。
つい先日も「メチオニン摂取制限がメタボ症候群解消や長寿のカギを握っているかも知れない。現在メチオニンを抜いたプロテインを使った実験が行われている。」という記事を紹介したところだ。[18]
興味深いのはコラーゲンの効用において、コラーゲンはまさにメチオニンとトリプトファンをほぼ抜いたプロテインになっているということである。
この点を指摘している科学者は昔からいる。
(堀江俊之・週刊ニュースレターより)
出典 / Reference
1. Atiya Ali, Mohamed et al. “Polyamines in foods: development of a food database.” Food & nutrition research vol. 55 10.3402/fnr.v55i0.5572. 14 Jan. 2011, doi:10.3402/fnr.v55i0.5572
2. Leeuwenhoek, Antoni van. "Observationes D. Anthonii Lewenhoeck, de natis'e semine genitali animalculis." Philosophical transactions of the Royal Society of London 12.142 (1978): 1040-1046.
3. Larqué, Elvira, María Sabater-Molina, and Salvador Zamora. "Biological significance of dietary polyamines." Nutrition 23.1 (2007): 87-95.
4. Løvaas, Erik. "Antioxidative effects of polyamines." Journal of the American Oil Chemists' Society 68.6 (1991): 353-358.
5. Minois, Nadège, Didac Carmona-Gutierrez, and Frank Madeo. "Polyamines in aging and disease." Aging (Albany NY) 3.8 (2011): 716.
6. Soda, Kuniyasu, et al. "Polyamine-rich food decreases age-associated pathology and mortality in aged mice." Experimental gerontology 44.11 (2009): 727-732.
7. Soda, Kuniyasu, et al. "Increased polyamine intake inhibits age-associated alteration in global DNA methylation and 1, 2-dimethylhydrazine-induced tumorigenesis." PLoS One 8.5 (2013): e64357.
8. Soda, Kuniyasu, et al. "Spermine, a natural polyamine, suppresses LFA-1 expression on human lymphocyte." The Journal of Immunology 175.1 (2005): 237-245.
9. Persson, Lo. "Polyamine homoeostasis." Essays in biochemistry 46 (2009): 11-24.
10. Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 61(12), 607-624, 2014 Copyright© 2014, Japanese Society for Food Science and Technology doi : 10.3136/nskkk.61.607
11. Jell, Jason, et al. "Genetically altered expression of spermidine/spermine N1-acetyltransferase affects fat metabolism in mice via acetyl-CoA." Journal of Biological Chemistry 282.11 (2007): 8404-8413.
12. Eisenberg, Tobias, et al. "Induction of autophagy by spermidine promotes longevity." Nature cell biology 11.11 (2009): 1305-1314.
13. Zhang, Hanlin, et al. "Polyamines control eIF5A hypusination, TFEB translation, and autophagy to reverse B cell senescence." Molecular cell 76.1 (2019): 110-125.
14. https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2021/4/9/210409-1.pdf
15. Tofalo, Rosanna, Simone Cocchi, and Giovanna Suzzi. "Polyamines and gut microbiota." Frontiers in nutrition 6 (2019): 16.
16. Kitada, Munehiro, et al. "Effect of Methionine Restriction on Aging: Its Relationship to Oxidative Stress." Biomedicines 9.2 (2021): 130.
17. Bárcena, Clea, et al. "Methionine restriction extends lifespan in progeroid mice and alters lipid and bile acid metabolism." Cell reports 24.9 (2018): 2392-2403.
18. Fang, Han, et al. "Implementation of dietary methionine restriction using casein after selective, oxidative deletion of methionine." iScience (2021): 102470.