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エコーチェンバーなのか?

先日、糖質制限に関するアンケートをSNSでとったところ1000以上の投票があり実にその8割が糖質制限に否定的という結果になった。(1)

この結果がエコーチェンバー現象なのか、あるいは実際に世の中が良い方向に向かっているのかどうかは直ぐに定かではない。

糖質制限の是非は「専門家」の間でも永らく意見が分かれてきた。

しかし主に糖尿病の病理や対策の分野から「糖質代謝不良は糖質制限では治らない」という、一般人でも十分に理解できる、平易な道理に立ち返りつつある。

現在も続いている倒錯した状況は例えるなら、足を傷めて満足に歩けない人がまた歩けるようになるべく「専門家」に助けを求めると、往々にして「本来歩行はよろしくない」と教えられるようなものである。

このような奇妙な状況は「歩行制限で歩行能力が上がるか?」を試した人が増えるにつれ破綻するので特に悲観はしていない。

 

単純では無い…

最近では糖質摂取→インスリン分泌→肥満という単純な機序を想定するには無理があるという声を挙げる科学者も増え、支持を得てきている。(Hall 2018)

もっと掘り下げると糖質問題の根源は決して「科学的」なことや技術的なこと、生化学的なことでも無いと感じている。

多くの人が気がついていないのは「エビデンス」を出さなければ誰も耳を貸さないような風潮や指向性が逆に論理を小脇へと追いやっているということだ。

エンジニアリングや純然たる物理化学の分野は別として、栄養学では手持ちのカード、例えば臨床から話をこしらえてしまう先生も多い。

物事を理解すればするほど知り得ない事象が増え、知の限界に押し潰されそうになる、ということは古今東西の賢人が名言として残している。

現在ダニング・クルーガー効果と呼ばれている現象は、古くはソクラテスの「無知の知」に始まるものだ。

 

結果オーライの罪

情報社会では「分かりません」という態度は価値を持たないどころか信頼すら失いかねない。

こういった現実の救済に際し、一方では権威主義、肩書主義を利用した言い切りや現実に則さない明快さが氾濫し、他方ではその言い切りを元にした短絡理論の隆盛、もしくは「人それぞれ」という思考放棄、あるいは「自分なりに調べてやってみた」というリスク行為が放置されることになる。

いずれにせよ私個人のユニークな邂逅は、インスリン抵抗性を戦略的に見るということからだった。

周知の通り妊婦は血糖値が高くなる傾向にあり、血糖値が高いと胎児も大きくなる傾向にある。

逆に、生まれた時の重量が低い人は晩年糖尿病になりやすい傾向がある。(Hales 1991)

もう一つファクターを挙げると遺伝子型の研究から「肥満」は代謝タイプの素因よりも神経伝達系・行動系の素因による影響であると考えられている。(O’Rahilly 2006)

これらは何を意味しているのだろうか?

 

インスリン抵抗性は脳への糖質供給

こう考えてみると分かりやすい。

つまり身体では無く、脳がまず糖質を訴求しているということだ。

インスリン抵抗性、高血糖は、脳が血糖を分捕りに来た状態である。

血中脂質が上昇すると組織で糖質利用が低下する現象、ランドル・サイクルも脳への糖質を確保する現象である。

一般に飢餓状態では脳を保護するために、飽食状態では脳をさらに成長させるために、双方の状態でインスリン抵抗性は起きる。

胎内で糖質に恵まれなかった人(出生重量が低かった人)は、既に飢餓状態にさらされエピジェネティクスが獲得されており、脳のための糖質をセーブすべく、インスリン抵抗性を発現する素因が出来上がっている。

糖質制限で耐糖能が悪化するのは、糖質の摂取を減らすと、脳が自らの糖質源を危惧してインスリン抵抗性を悪化させるということであり、これは生まれる前から一貫しているのだ。

また肥満になるかどうかが主に神経伝達系や行動系の素因によるのは、脳(神経系)が自ら糖質を確保しようとすることの表れであり、インスリン抵抗性や高血糖は脳が起こしているということだ。

だから身体でインスリン抵抗性が発生しても脳での血糖取り込みは落ちない。
(Cranston 1998)

我々は進化の過程で体躯主導型から脳主導型になり、脳の発達を推し進めるためにインスリン抵抗性や高血糖が発生し、その弊害も被ることとなった。

現時点で推奨される食事法は先ず継続した糖質摂取を実現し脳に潤沢な糖質を供給することで身体におけるインスリン抵抗性を解消することだ。

「インスリン抵抗性は脳への糖質供給である」という理論が広まることを願っている。


(出典に続く)

 

1. https://twitter.com/ToshiyukiHorie/status/1268289661048246272

Hall, K.D.; Guyenet, S.J.; Leibel, R.L. The carbohydrate-insulin model of obesity is difficult to reconcile with current evidence. JAMA Intern. Med. 2018, 178, 1103–1105.

Hales, C. Nicholas, et al. "Fetal and infant growth and impaired glucose tolerance at age 64." Bmj 303.6809 (1991): 1019-1022.

O'Rahilly, Stephen, and I. Sadaf Farooqi. "Genetics of obesity." Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences 361.1471 (2006): 1095-1105.

Cranston I, Marsden P, Matyka K, Evans M, Lomas J, Sonksen P, Maisey M, Amiel SA. Regional differences in cerebral blood flow and glucose utilization in diabetic man: the effect of insulin. J of Cerebral Blood Flow & Metab. 1998;18:130–140. doi: 10.1097/00004647-199802000-00002.

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