多くの人でポリフェノールの源に
人間がファイトケミカル(植物に含まれる栄養素)をどのように利用しているのか?
この研究対象は最近急速に明らかになりつつある事実を踏まえその注目度を増している。
ファイトケミカルを含め、生物における炭素の代謝で産生される有用な物質には大きく分けて3種類ある。
・フェノール類
・テルペン類
・窒素化合物
我々人間は植物から有用な微量栄養素を頂く際、大きく分けて上記3種類の栄養素群を取り入れていることになる。
コーヒーほど多岐にわたる「健康効果」との相関が示唆されている食品は少ない。
コーヒーを飲むとコーヒーに含まれる何らかの成分が血中で上昇しそれが「スカベンジャー」的な役割をすると考えている人は多い。
しかしコーヒーを飲んだ後のポリフェノール濃度は体内の、尿酸、アスコルビン酸、グルタミン、グルタチオンといった抗酸化物質のレベルには遠く及ばず[1, 2]、直接的な抗酸化作用はかなり昔に否定されている。
つまりコーヒーの「健康効果」は上に挙げたアンチオキシダント類とは違った機序でその効果を発揮するということだ。
さて、作用機序は後ほど説明するとして、コーヒーを習慣的に飲むことはフェノール摂取方法の一つの選択として非常に重要である。
特に果物や野菜を十分に食べない人たちにおいては摂取する大部分のポリフェノールをコーヒーかお茶から得ることになる。[3, 4]
フェノール類の特長
・どの植物にも存在する
・抗菌、抗カビ効果がある
・生物と無生物の両方の攻撃に対応出来る
抗菌・抗ウィルス作用
植物において感染に対する防衛反応では主にフェノール類が感染箇所に集積することが知られている。[5]
つまりフェノール類には抗菌、抗ウィルス作用があるのだ。
このことは玉ねぎなど色素の無い玉ねぎよりも色素(ポリフェノール)のあるたまねぎ(例:紫玉ねぎ)の方が細菌に対する防衛力が高いことからも明らかである。[6]
2種類のフェノール
舌を巻くのは多くの野菜で予めその野菜によく付くような細菌に対する防護剤としてのフェノール類があらかじめ生産されて蓄積していることである。[7]
これらはファイトアンティシピンと呼ばれるタイプの物質だ。
逆に細菌に感染してからのディフェンスを発揮するものがある。
このタイプの抗菌物質はファイトアレクシンと呼ばれ豆類に多い。[8]
繰り返しになるが、ファイトアレクシンの特徴は攻撃を受けてから新たに生成される点である。
紫外線ブロック作用
またフラボノイド類にはUVA (320–400 nm) や UVB (290–320 nm)を吸収してブロックする作用がある。[9]
そのためサンスクリーンに自然のフラボノイドを混ぜ込むと紫外線ブロック作用が格段に向上することが確かめられている。[10]
作用機序
多くのファイトケミカルがどのように作用(細胞を防衛)するかは一般に考えられているイメージとは違うかも知れない。
一般に考えられているのはファイトケミカル自体が正義のスーパーヒーローとなって病原菌を退治したり汚染物質を除去したりするというイメージではないだろうか?
実際に起きているメカニズムはまず、野菜を食べたりコーヒーを飲んだりすると細胞内のAhR(芳香族炭化水素受容体)が刺激されるということだ。[11]
AhRは主に石油化学物質が血球の毒性[12]や腎臓の毒性[13]などをはじめ、多くの病態を発現する際に関与してくる。
野菜やコーヒーに含まれるフェノール類はAhRを刺激することで「戦闘態勢」に入る。
これが多くのファイトケミカルにおける「効用」をもたらしているのだ。
刺激されたAhRは活性酸素種のシグナルを通してヒートショックプロテイン90との協調[14]やNrf2(赤血球系転写因子2関連転写因子2)の細胞質内から核内へのトランスロケーションをもたらす。[15]
核内に入ったNrf2が小Maf(筋腱膜性線維肉腫)蛋白と結合するとEpRE(親電子性物質応答配列)を惹起し、これが数百に渡る細胞防御遺伝子型の発現に関わる。[16]
つまりファイトケミカルが微量で強力なアンチオキシダント効果をもたらすのは細胞のディフェンス・システムを起動し、包括的で広範な遺伝子型応答を引き起こすためである。
端的には我々に既に備わっている装置のスイッチを入れることだと言ってもいい。
今まで調査をしてきて感じるのは我々人間はエネルギー消費をセーブするためにあらゆる機能をオフにしているということだ。
この飽食の時代、エネルギーが余って「成人病」が多発している面が多いにある。
野菜や果物、アンチオキシダントを沢山摂取してメタボリズムを上げ、免疫を上げ、身体システムを「オン」にした上で仕事や趣味に勤しむのは元気に過ごすための常套手段と考えられる。
我々の身体は現代社会の食生活や行動パターンにまだ適応・進化できていない。
この未対応の部分の解決はあらゆる代謝機序を解明することによりどんなライフスタイルの改善が必要で、かつ可能かを予測することから始まる。
それには広範な分野の研究を紐解き、先進的な栄養学を積み上げていくより他ないだろう。
(出典)
1. Lotito, Silvina B., and Balz Frei. "Consumption of flavonoid-rich foods and increased plasma antioxidant capacity in humans: cause, consequence, or epiphenomenon?." Free Radical Biology and Medicine 41.12 (2006): 1727-1746.
2. Lee YH. Coffee consumption and gout: a Mendelian randomisation study. Ann Rheum Dis. 2019;78(11):e130. doi:10.1136/annrheumdis-2018-214356
3. Burkholder-Cooley, Nasira, et al. "Comparison of polyphenol intakes according to distinct dietary patterns and food sources in the Adventist Health Study-2 cohort." British Journal of Nutrition 115.12 (2016): 2162-2169.
4. Grosso, Giuseppe, et al. "Estimated dietary intake and major food sources of polyphenols in the Polish arm of the HAPIEE study." Nutrition 30.11-12 (2014): 1398-1403.
5. Matern, Ulrich & kneusel, richard. (1988). Phenolic compounds in plant disease resistance. Phytoparasitica. 16. 153-170. 10.1007/BF02980469.
6. Walker JC, Link KP, Angell HR. CHEMICAL ASPECTS OF DISEASE RESISTANCE IN THE ONION. Proc Natl Acad Sci U S A. 1929;15(11):845-850.
7. Thawait, Lokesh & Mahatma, Mahesh & Kalariya, Kuldeepsingh & Bishi, Sujit & Mann, Anita. (2014). Plant Phenolics: Important Bio-Weapon against Pathogens and Insect Herbivores. Popular Kheti. 2. 149-152.
8. Hammerschmidt R. PHYTOALEXINS: What Have We Learned After 60 Years?. Annu Rev Phytopathol. 1999;37:285-306. doi:10.1146/annurev.phyto.37.1.285
9. N. Saewan and A. Jimtaisong, “Photoprotection of natural flavonoids,” Journal of Applied Pharmaceutical Science, vol. 3, no. 9, pp. 129–141, 2013.
10. M. F. Bobin, M. Raymond, and M. C. Martini, “Propriedades de absorção UVA/UVB de produtos naturais,” Cosmetics & Toiletries, vol. 7, pp. 44–50, 1995.
11. Ishikawa T, Takahashi S, Morita K, Okinaga H, Teramoto T (2014) Induction of AhR-Mediated Gene Transcription by Coffee. PLoS ONE 9(7): e102152. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0102152
12. Byung-Il Yoon, Yoko Hirabayashi, Yasushi Kawasaki, Yukio Kodama, Toyozo Kaneko, Jun Kanno, Dae-Yong Kim, Yoshiaki Fujii-Kuriyama, Tohru Inoue, Aryl Hydrocarbon Receptor Mediates Benzene-Induced Hematotoxicity, Toxicological Sciences, Volume 70, Issue 1, November 2002, Pages 150–156,
13. Zhao, H., Chen, L., Yang, T. et al. Aryl hydrocarbon receptor activation mediates kidney disease and renal cell carcinoma. J Transl Med 17, 302 (2019). https://doi.org/10.1186/s12967-019-2054-5
14. Marc B. Cox and Charles A. Miller III, Cell Stress & Chaperones, Vol. 9, No. 1 (Mar., 2004), pp. 4-20
15. Dietrich C. Antioxidant Functions of the Aryl Hydrocarbon Receptor. Stem Cells Int. 2016;2016:7943495. doi:10.1155/2016/7943495
16. Tonelli C, Chio IIC, Tuveson DA. Transcriptional Regulation by Nrf2. Antioxid Redox Signal. 2018;29(17):1727-1745. doi:10.1089/ars.2017.7342