ビタミンDアップデート
目次
■ 知れば知るほど、不足を知る
■ 朝食との関連
■ 日光浴との兼ね合い
■ 半数以上が不十分
ビタミンDと一般的な健康
■ ホルモンとしてのビタミンD
■ 多岐にわたる関与
■ ビタミンD高値を維持する意義
ビタミンD補給と疾患の改善
■ ビタミンDと死亡リスク
■ ビタミンDとがん
■ ビタミンDと高血圧
■ ビタミンDと心臓血管疾患
■ ビタミンDと2型糖尿病
■ ビタミンDとメタボ症候群
■ ビタミンDと脳神経系疾患
■ ビタミンDとCOVID-19
ビタミンD摂取のコンセンサス
■ 1〜18歳
■ 妊婦・授乳期の母親
■ 20〜65歳
■ 75歳以上
ビタミンD摂取における問題点・限界
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ビタミンD摂取の近況
■ 知れば知るほど、不足を知る
ビタミンDは、カルシウムと骨の恒常性維持に必須の栄養素である。[1]
意外に思うかも知れないがビタミンDを含む食品はそう沢山無い。
事実、現在でも北米では殆どの人で食事由来のビタミンD量は推奨量に達していないとされる。[2]
食事中のビタミンDが十分でないため、人類は進化の過程でUVB(紫外線B波)を使用した光によるビタミンD合成(光合成)にビタミンDの供給を頼ってきた。[3]
日光浴は弱い放射線への曝露であり、DNA損傷のリスクや発がん性にも繋がるため、浴びれば浴びるほど良い、というものではない。[4]
■ 朝食との関連
朝食を食べる人でビタミンD摂取量が多い傾向にあるのは朝食シリアルにミルクをかけるからだという考察があり[3]、事実、ミルク製品のビタミンDを強化する政策をとっている国々ではビタミンD摂取量の28~63%を強化乳製品が担っているという推察がある。[5]
つまり国策が無ければビタミンDの不足状況は、よりひどい状態になっていたと考えられる。
■ 日光浴との兼ね合い
ビタミンDの光合成は進化の過程においてサバイバルには都合が良かったが、現代のように平均寿命が延びてくると、がんリスクを下げるあらゆる方策の一環として、サプリメントによるビタミンD補給による「生涯スパンで見た日光浴の時間の調整」が必要になるかも知れない。
いずれにせよ、ビタミンD充足度に関して言えば、特に現代人の場合、光合成と食事からの摂取のみでは理想的なレベルに達していない傾向が強い。
■ 半数以上が不十分
ビタミンDの重要性がより明確に理解されるにつれ、世界の半数以上の人口がビタミンD欠乏の危機に瀕しているとされる。[6]
ビタミンDと一般的な健康
■ ホルモンとしてのビタミンD
筋肉増強剤や抗炎症ステロイドとはその働きが大きく異なるが、ビタミンDはステロイド(ホルモン)と呼ばれても差し支えない。
プロゲステロンとビタミンDは(同一受容体ファミリー内の)異なる受容体に作用するが、よく似たホルモンであるとする意見がある。[7]
■ 多岐にわたる関与
ビタミンDの「不足」または「不十分」が声高になってきた理由はは、体内での関与が多岐にわたるからである。
ビタミンDの効果の大半は、ビタミンD受容体を介してもたらされる。
ビタミンD受容体は殆どの細胞に存在するので、ビタミンDは、程度の差こそあれ、生体内の殆どの反応に関係していると考えて差し支えない。[8]
ビタミンDが関係する主要な経路は
・免疫機能
・ミネラル代謝(カルシウム、リン)
・糖代謝(インスリン)
・血圧調整
などが有名である。
■ ビタミンD高値を維持する意義
ビタミンDの需要が生体内で普遍的であることは、摂取状況や代謝状況が少し崩れたり、偏在したり、血中濃度が大きく変動したりするだけで、ビタミンD欠乏に似た影響が、短いスパンや局所的な形で出る可能性が考えられる。
それゆえ、サプリメント摂取により(血中の活性型の)ビタミンDレベルを人為的な方法で高値に保っておくことは、ビタミンDにおける需要と供給の「タイムラグ」を未然に防ぐことによる効果を発揮しているかも知れない。
こういった「効果」は因果として確認し難く、割り引いて考えられがちであろう。
■ ビタミンDと包括的な取り組み
ビタミンDが不足したり、あるいはビタミンDレベルの低値は数多くの疾患との関連が指摘されている。
従って、ビタミンD摂取による低値補正は各疾患の予防、重症化予防、治療における併用、の各段階で好ましい影響が確認されている。
但しビタミンDサプリメントを単品追加するのではなく、あくまで食事、活動量、微量栄養素摂取といった包括的なライフスタイル改善の一環として捉えたい。
ビタミンD補給と疾患の改善
ビタミンDのサプリメンテーションは標準治療を含む、多くの治療法で併用治療としてその重要性を確立しつつある。
ここでは「質が高い」と言われる記事(メタ解析やメンデルランダム化解析)における新しい評価をざっと見てみよう。
■ ビタミンDと死亡リスク
・2021年12月
血中ビタミンD濃度が低いと死亡率が高くなるような因果関係がある可能性が示唆された。[9]
・2019年8月
ビタミンDの単独補給は全死因死亡リスクの低下に関連しない、という結論。しかし、がんによる死亡リスクでは15%の低下が認められた。[10]
■ ビタミンDとがん
・2022年3月
ビタミンDのサプリメンテーションはがんの全発生率を低減させないが、がんによる総死亡率を有意に減少させることが示唆された。[11]
・2021年2月(ドイツ)
ビタミンDのサプリメンテーションは、年間約3万人のがん死亡を防ぐと推定される。ビタミンDサプリメンテーションにかかる概算費用は9億ユーロ、がんに対する効果で節約される金額は11億5400万ユーロと想定され、2億5400万ユーロの純節約となることが示唆された。
・2020年9月
ビタミンDサプリメンテーションが大腸がん患者の生存率に臨床的に有意な利益をもたらす可能性を示した。[23]
・2019年5月
ビタミンDのサプリメンテーションは、がんによる総死亡率を有意に減少させたが、がんの総発生率は減少させなかった。[12]
・2019年11月
がんの既往がなく、とりわけビタミンDやカルシウムを余分に摂取していない人たちにおいては、ビタミンDのサプリメンテーションはがん死亡率の低下に寄与する可能性がある。[13]
■ ビタミンDと高血圧
・2022年3月
この疫学研究のメタ解析では、前向きコホート研究および横断研究のいずれにおいても、血清ビタミンD濃度は成人における高血圧症のリスクと用量反応的に逆相関(ビタミンD濃度が上がるほどリスクが下がる)していることが示された。[14]
■ ビタミンDと心臓血管疾患
・2022年6月
ビタミンDの血中濃度が低いと重大で有害な心疾患イベントに関連することが示唆されたが、全死亡、心筋梗塞、心不全などのリスクにおいてはそのような差は認められなかった。[15]
■ ビタミンDと2型糖尿病
・2022年3月
2型糖尿病患者において、ビタミンD濃度があまり低かったり高かったりすると、全死亡リスクを上昇させる可能性がある。[16]
・2021年6月
この疫学研究のメタ解析では、成人における2型糖尿病および、2型糖尿病と境界型糖尿病における合併症のリスクを考察。[17]
血清ビタミンD濃度が高くなるほど、上記のリスクが低くなる傾向が示された。
しかし境界型糖尿病への関連は顕著なものではなかった。
■ ビタミンDとメタボ症候群
・2021年4月
一般成人集団の横断研究において、血清ビタミンD濃度が上がるとメタボ症候群のリスクが下がるという関係があることが示された。[18]
■ ビタミンDと脳神経系疾患
・2022年4月
血中ビタミンDレベルが低いことは(広範に共変量を調整した後でも)認知症や脳卒中のリスクと関連していた。
MR(メンデルランダム化)解析によると、ビタミンD不足が認知症に因果的に関係することを示唆していたが、脳卒中リスクへの影響は見られなかった。[19]
■ ビタミンDとCOVID-19
・2021年12月
ビタミンDのサプリメンテーションはCOVID-19患者のICU入室に有益な影響(低下)を示しているが,死亡率には影響を及ぼしていない。
・2021年11月
ビタミンDのサプリメンテーションは,死亡率,重症度,炎症マーカーの血清レベルの低減に関連する。[20]
・2021年3月
血清ビタミンDが低値であることは,COVID-19の感染,重症化,死亡率の増加に関連していた。[21](血中ビタミンDレベルを上げるべき)
ビタミンD摂取のコンセンサス
殆どすべてのガイドラインにおいて血清ビタミンD(25OHD)のレベルは 25nmol/l(10ng/ml)を下回ってはいけないという大まかなコンセンサスがある。
この大まかなコンセンサスは全ての年齢層にあてはまるという点も一致している。
なお、学会のコンセンサスは個人への医療的指導では無いということをしっかり認識しておこう。
下は世界各国のガイドラインからコンセンサスを俯瞰した総説を閲覧した印象をまとめたものである。[22]
総説には数十カ国にわたり古い推奨量の例と新しい推奨量が列挙されており、本稿で詳説するものではないとの判断をした。
特徴的なのはホルモンに関する専門的な学会『内分泌学会』の推奨量が特に高い(成人で推奨上値を2000IUと表示)ことである。
■ 乳幼児
IOM(全米医学アカデミー)の指針をはじめ、全ての乳児は生後1年間、毎日400国際単位(IU)(10μg)を摂取すべきであるというコンセンサスが多くの学会にある。
■ 1〜18歳
一日に400〜600IUの摂取を推奨する学会が主流。
■ 妊婦・授乳期の母親
一日に600IUの摂取を推奨する学会が主流。
■ 20〜65歳
一日に400〜600IUの摂取を推奨する学会が主流。
■ 75歳以上
一日に600〜800IUの摂取を推奨する学会が主流。
ビタミンD摂取における問題点・限界
ビタミンDのサプリメンテーション啓蒙におけるハードルは、「健康に良い」と思われるような証左が日を追うごとに山積する一方で、特に厳格な臨床実験などでは、ビタミンDサプリメント単品の効果が芳しくないことである。
これは主に、ビタミンDをはじめとする微量栄養素の摂取という課題が、日常的なエクササイズなどと同じく、生活習慣を改善して恒常性を頑強にする種類のタスクであり、疾患の治療ではないからである。
ランニングしているからといって喫煙やジャンクフードの影響は無くならないということだ。
残念ながら良い習慣で悪い習慣による害は克服されないのであるから、病気の治療はまた別と考えよう。
いずれにせよ、常日頃からライフスタイルの改善に取り組み、免疫を強化しておくことは、疾患に陥ってからの対処に比べ、何倍も重要であることは間違いない。
その意味で栄養の取り組みは、何にも増して重要な分野を扱っているといえる。
ビタミンDはQOL(生活の質)の底上げを助ける、重要で安価な、現代社会に必要不可欠なサプリメントであるといえるかも知れない。
堀江 俊之
Reference:
1. Powe, Camille E., Catherine Ricciardi, Anders H. Berg, Delger Erdenesanaa, Gina Collerone, Elizabeth Ankers, Julia Wenger, S. Ananth Karumanchi, Ravi Thadhani, and Ishir Bhan. "Vitamin D–binding protein modifies the vitamin D–bone mineral density relationship." Journal of Bone and Mineral Research 26, no. 7 (2011): 1609-1616.
2. Hill, Kathleen M., Satya S. Jonnalagadda, Ann M. Albertson, Nandan A. Joshi, and Connie M. Weaver. "Top food sources contributing to vitamin D intake and the association of ready‐to‐eat cereal and breakfast consumption habits to vitamin D intake in Canadians and United States Americans." Journal of food science 77, no. 8 (2012): H170-H175.
3. Neville, Jonathan J., Tommaso Palmieri, and Antony R. Young. "Physical determinants of vitamin D photosynthesis: a review." JBMR plus 5, no. 1 (2021): e10460.
4. Armstrong, Bruce K., and Anne Kricker. "The epidemiology of UV induced skin cancer." Journal of photochemistry and photobiology B: Biology 63, no. 1-3 (2001): 8-18.
5. Itkonen, Suvi T., Maijaliisa Erkkola, and Christel JE Lamberg-Allardt. "Vitamin D fortification of fluid milk products and their contribution to vitamin D intake and vitamin D status in observational studies—a review." Nutrients 10, no. 8 (2018): 1054.
6. Holick, Michael F. "Sunlight, UV radiation, vitamin D, and skin cancer: how much sunlight do we need?." Sunlight, Vitamin D and Skin Cancer (2020): 19-36.
7. Monastra, G., S. De Grazia, L. De Luca, S. Vittorio, and V. Unfer. "Vitamin D: a steroid hormone with progesterone-like activity." Eur Rev Med Pharmacol Sci 22, no. 8 (2018): 2502-2512.
8. Bikle, Daniel D. "Vitamin D: an ancient hormone." Experimental dermatology 20, no. 1 (2011): 7-13.
9. Sofianopoulou, Eleni, Stephen K. Kaptoge, Shoaib Afzal, Tao Jiang, Dipender Gill, Thomas E. Gundersen, Thomas R. Bolton et al. "Estimating dose-response relationships for vitamin D with coronary heart disease, stroke, and all-cause mortality: observational and Mendelian randomisation analyses." The Lancet Diabetes & Endocrinology 9, no. 12 (2021): 837-846.
10. Zhang, Yu, Fang Fang, Jingjing Tang, Lu Jia, Yuning Feng, Ping Xu, and Andrew Faramand. "Association between vitamin D supplementation and mortality: systematic review and meta-analysis." Bmj 366 (2019).
11. Guo, Zhangyou, Ming Huang, Dandan Fan, Yuan Hong, Min Zhao, Rong Ding, Yao Cheng, and Shigang Duan. "Association between vitamin D supplementation and cancer incidence and mortality: A trial sequential meta-analysis of randomized controlled trials." Critical Reviews in Food Science and Nutrition (2022): 1-15.
12. Keum, N., D. H. Lee, D. C. Greenwood, J. E. Manson, and E. Giovannucci. "Vitamin D supplementation and total cancer incidence and mortality: a meta-analysis of randomized controlled trials." Annals of Oncology 30, no. 5 (2019): 733-743.
13. Zhang, Xinran, and Wenquan Niu. "Meta-analysis of randomized controlled trials on vitamin D supplement and cancer incidence and mortality." Bioscience reports 39, no. 11 (2019).
14. Mokhtari, Elahe, Zahra Hajhashemy, and Parvane Saneei. "Serum Vitamin D Levels in Relation to Hypertension and Pre-hypertension in Adults: A Systematic Review and Dose–Response Meta-Analysis of Epidemiologic Studies." Frontiers in nutrition 9 (2022).
15. Jaiswal, Vikash, Angela Ishak, Song Peng Ang, Nishan Babu Pokhrel, Nishat Shama, Kriti Lnu, Jeffy Susan Varghese et al. "Hypovitaminosis D and cardiovascular outcomes: A systematic review and meta-analysis." IJC Heart & Vasculature 40 (2022): 101019.
16. Fan, Yuxin, Li Ding, Yalan Zhang, Hua Shu, Qing He, Jingqiu Cui, Gang Hu, and Ming Liu. "Vitamin D Status and All-Cause Mortality in Patients With Type 2 Diabetes in China." Frontiers in Endocrinology 13 (2022).
17. Mohammadi, Sobhan, Zahra Hajhashemy, and Parvane Saneei. "Serum vitamin D levels in relation to type-2 diabetes and prediabetes in adults: a systematic review and dose–response meta-analysis of epidemiologic studies." Critical reviews in food science and nutrition (2021): 1-21.
18. Hajhashemy, Zahra, Farnaz Shahdadian, Elham Moslemi, Fateme Sadat Mirenayat, and Parvane Saneei. "Serum vitamin D levels in relation to metabolic syndrome: A systematic review and dose–response meta‐analysis of epidemiologic studies." Obesity Reviews 22, no. 7 (2021): e13223.
19. Navale, Shreeya S., Anwar Mulugeta, Ang Zhou, David J. Llewellyn, and Elina Hyppönen. "Vitamin D and brain health: an observational and Mendelian randomization study." The American Journal of Clinical Nutrition (2022).
20. Nikniaz, Leila, Mohammad Amin Akbarzadeh, Hossein Hosseinifard, and Mohammad-Salar Hosseini. "The impact of vitamin D supplementation on mortality rate and clinical outcomes of COVID-19 patients: A systematic review and meta-analysis." MedRxiv (2021).
21. Akbar, Mohammad Rizki, Arief Wibowo, Raymond Pranata, and Budi Setiabudiawan. "Low serum 25-hydroxyvitamin D (vitamin D) level is associated with susceptibility to COVID-19, severity, and mortality: a systematic review and meta-analysis." Frontiers in nutrition 8 (2021): 660420.
22. Bouillon, Roger. "Comparative analysis of nutritional guidelines for vitamin D." Nature Reviews Endocrinology 13, no. 8 (2017): 466-479.
23. Vaughan-Shaw, Peter G., Louis F. Buijs, James P. Blackmur, Evi Theodoratou, Lina Zgaga, Farhat VN Din, Susan M. Farrington, and Malcolm G. Dunlop. "The effect of vitamin D supplementation on survival in patients with colorectal cancer: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials." British journal of cancer 123, no. 11 (2020): 1705-1712.