低炭水化物食で脂肪肝になる理由

内臓脂肪の低減から考えよう



高炭水化物・低脂肪食、あるいは低炭水化物食・高脂肪食のどちらが「良いのか?」という問いは一般によく飛び交うところだ。

栄養に詳しくなってくると、その対立図式は一つの側面に過ぎないことに気づき、マクロ栄養素から食事法を語ることは憚られてくる。

少し聞いただけでは理解し難いかも知れないが、私の場合「糖質悪玉論」には反対であるものの、前述したようにマクロから栄養を語ると踏み外す橋があるため、「糖質をどんどん摂れ」という主張をするわけでは無い。

端的に言えば、そういう話では無いということだ。

「Aチームで無いからといって、Bチームとは限らない」という防護シールドは、とかく白か黒かで我々の脳を侵食してくるメディアを読み解くには必須の法則である。

我々はいきなり皮下脂肪率を気にしがちであるが、高炭水化物食と高脂肪食の特色と有効性を考察するには、おそらくまず肝脂肪の増減を気にした方が良いだろう。

その理由は多くあるが長い目で見て糖代謝能力を高く保つ方策でカギになるのは内臓脂肪の低減であり、肝脂肪の低値維持であるからだ。

最近の研究でも糖尿病性末梢神経障害と肝線維症の相関が示唆されている。(糖尿病が悪化すると脂肪肝も進行する場合があるよということ)[1]

 

肝臓と代謝異常


今回は食事中の炭水化物量や脂質量を調整することにより、肝臓脂肪の増え方、減り方がどう違うかというテーマだが、その前に肝臓を取り巻く代謝異常の様子を見てみよう。

 

図1. 代謝異常と非アルコール性脂肪性肝疾患

非アルコール性脂肪性肝疾患の病態は、原因と結果がインスリン抵抗性やメタボリック症候群の場合と似ている。

つまり糖代謝能力の低下と非アルコール性脂肪性肝疾患はお互いが原因と結果として負の連鎖を作り出していると言って良いのではないかと感じる。

インスリン感受性の低下の影響その1

インスリンによる脂肪分解の抑制が低下

遊離脂肪酸上昇(脂質動員=リポリシス上昇)

インスリン感受性サイトカインであるアディポネクチン不足

肝細胞内の中性脂肪合成を促進

別の方面では

インスリン感受性の低下の影響その2

グルコース取り込み低下
VLDL(超低密度リポ蛋白質)の産生の抑制が低下

高血糖
高インスリン血症
高トリグリセリド血症(TG↑)
低HDLコレステロール血症(HDL-C↓)

上記が重なり脂肪肝が進行し


脂肪肝進行

アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)
C-反応性蛋白(CRP)
凝固因子

などの多くの因子が異常値に。(訂正:高値→異常値)


脂肪肝と食事の関連



下の図2を見てみよう。

図2
食事が非アルコール性脂肪性肝疾患とインスリン感受性にもたらす影響


この図では11個の研究がグラフ化されている。

少し解説していく。

左上①

摂取カロリーを変えず、炭水化物と脂質の割合だけを変えて肝脂肪の増減を見たものだ。

ここでは3つの研究が紹介されている。

どの研究においてもカロリーを増やさなくても高脂質食にするだけで肝脂肪が増加している。


右上②

摂取カロリーが同じで、脂質の内容を変更する介入を比較したもの。

飽和脂肪酸の割合が多いと肝脂肪は減らないようだ。

逆に不飽和脂肪酸を増やすと肝脂肪は減ると示唆されている。


左下③

摂取カロリーを減らした研究だ。

摂取カロリーを減らすとマクロ栄養素に関わらず肝脂肪は減る。

カロリーを減らすと低炭水化物食における肝脂肪の減りも大きくなる。


右下④

摂取カロリーを増やす場合の研究が2つ。

肝脂肪を増やさず摂取カロリーを増やそうと思うと低脂質がよく、また脂質の内容を飽和脂肪酸と比べた場合、多価不飽和脂肪酸が良いという示唆になっている。

 

総括


総合すると、まず高脂質食で肝脂肪が増えないのは、摂取カロリーを減らす場合のみである。

カロリー維持もカロリー増加も低脂質で行うべきだ。

増える脂質の内容は飽和脂肪酸(動物性脂質など)よりも多価不飽和脂肪酸(植物オイルなど)の方が肝脂肪に与える影響は小さいようだが、PUFA(多価不飽和脂肪酸)には長期的に見て酸化ダメージを促したり炎症を促進したりする可能性があるため、アンダーカロリー時以外は、脂質の質を問題にするよりも、脂質全般を抑えた方が恩恵が大きいだろう。

全般的に無難であるのは低脂質食であると言える。

話を最初に戻すと、マクロ栄養素比率から見た栄養論は結果論であり、何故、低脂質食が無難であるかという理由に立ち返るべきであると考える。

それは、殆どの微量栄養素は植物由来であり、それらの充足に留意した場合、食材の選択肢が以下

野菜、果物、豆類、全粒穀物、発酵食品、ナッツ類、きのこ類、乳製品など

となるため、これらの食材を潤沢に採り入れた献立が、否応なしに高炭水化物・低脂肪食になるから、ということである。

蛋白質摂取量を増やす場合でも、この基本を変えること無く、低脂肪の蛋白質源を加えるべきだ。

食材の基本を無視して「炭水化物のカロリー比率は55%付近が妥当」という一点から入ると、白米やパスタを「主食」と考えて大量に食べるような、間違った方向性になる。

もう一つ注意したい点は、アンダーカロリーの条件で「成功」した食事法は維持カロリーレベルになった時に通用しない場合が多々あるということである。

低炭水化物食は高脂質食になることが多く「ローカーボ」を継続して脂肪肝の診断を受けた人は、割合的には不明であるが、数自体はとても多いという印象がある。

アンダーカロリーが体脂肪減少をもたらし、体脂肪減少や肝脂肪減少がもたらす恩恵は大きいことだろう。

しかしながらそれが持続性のあるライフスタイルであるかどうかは別個に考えなければならない。

 

堀江 俊之

(出典)

 

1.    Kim, Kyuho, Tae Jung Oh, Hyen Chung Cho, Yun Kyung Lee, Chang Ho Ahn, Bo Kyung Koo, Jae Hoon Moon, Sung Hee Choi, and Hak Chul Jang. "Liver fibrosis indices are related to diabetic peripheral neuropathy in individuals with type 2 diabetes." Scientific Reports 11, no. 1 (2021): 1-9.

2.    Yki-Järvinen, Hannele. "Nutritional modulation of non-alcoholic fatty liver disease and insulin resistance." Nutrients 7, no. 11 (2015): 9127-9138.
 

出典[2]中、図2における出典    

1.    Westerbacka, Jukka, Katriina Lammi, Anna-Maija Häkkinen, Aila Rissanen, Irma Salminen, Antti Aro, and Hannele Yki-Järvinen. "Dietary fat content modifies liver fat in overweight nondiabetic subjects." The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 90, no. 5 (2005): 2804-2809.

2.    van Herpen, Noud A., Vera B. Schrauwen-Hinderling, Gert Schaart, Ronald P. Mensink, and Patrick Schrauwen. "Three weeks on a high-fat diet increases intrahepatic lipid accumulation and decreases metabolic flexibility in healthy overweight men." The Journal of Clinical Endocrinology & 
Metabolism 96, no. 4 (2011): E691-E695.

3.    Utzschneider, Kristina M., Jennifer L. Bayer-Carter, Matthew D. Arbuckle, Jaime M. Tidwell, Todd L. Richards, and Suzanne Craft. "Beneficial effect of a weight-stable, low-fat/low-saturated fat/low-glycaemic index diet to reduce liver fat in older subjects." British journal of nutrition 109, no. 6 (2013): 1096-1104.

4.    Bjermo, Helena, David Iggman, Joel Kullberg, Ingrid Dahlman, Lars Johansson, Lena Persson, Johan Berglund et al. "Effects of n-6 PUFAs compared with SFAs on liver fat, lipoproteins, and inflammation in abdominal obesity: a randomized controlled trial." The American journal of clinical nutrition 95, no. 5 (2012): 1003-1012.

5.    Bozzetto, Lutgarda, Anna Prinster, Giovanni Annuzzi, Lucia Costagliola, Anna Mangione, Alessandra Vitelli, Raffaella Mazzarella et al. "Liver fat is reduced by an isoenergetic MUFA diet in a controlled randomized study in type 2 diabetic patients." Diabetes care 35, no. 7 (2012): 1429-1435.

6.    Ryan, Marno C., Catherine Itsiopoulos, Tania Thodis, Glenn Ward, Nicholas Trost, Sophie Hofferberth, Kerin O’Dea, Paul V. Desmond, Nathan A. Johnson, and Andrew M. Wilson. "The Mediterranean diet improves hepatic steatosis and insulin sensitivity in individuals with non-alcoholic fatty liver disease." Journal of hepatology 59, no. 1 (2013): 138-143.

7.    Kirk, Erik, Dominic N. Reeds, Brian N. Finck, Mitra S. Mayurranjan, Bruce W. Patterson, and Samuel Klein. "Dietary fat and carbohydrates differentially alter insulin sensitivity during caloric restriction." Gastroenterology 136, no. 5 (2009): 1552-1560.

8.    Browning, Jeffrey D., Jonathan A. Baker, Thomas Rogers, Jeannie Davis, Santhosh Satapati, and Shawn C. Burgess. "Short-term weight loss and hepatic triglyceride reduction: evidence of a metabolic advantage with dietary carbohydrate restriction." The American journal of clinical nutrition 93, no. 5 (2011): 1048-1052.

9.    Haufe, Sven, Stefan Engeli, Petra Kast, Jana Böhnke, Wolfgang Utz, Verena Haas, Mario Hermsdorf et al. "Randomized comparison of reduced fat and reduced carbohydrate hypocaloric diets on intrahepatic fat in overweight and obese human subjects." Hepatology 53, no. 5 (2011): 1504-1514.

10.    Sobrecases, H., K-A. Lê, M. Bortolotti, P. Schneiter, Michael Ith, Roland Kreis, C. Boesch, and L. Tappy. "Effects of short-term overfeeding with fructose, fat and fructose plus fat on plasma and hepatic lipids in healthy men." Diabetes & metabolism 36, no. 3 (2010): 244-246.

11.    Rosqvist, Fredrik, David Iggman, Joel Kullberg, Jonathan Cedernaes, Hans-Erik Johansson, Anders Larsson, Lars Johansson et al. "Overfeeding polyunsaturated and saturated fat causes distinct effects on liver and visceral fat accumulation in humans." Diabetes 63, no. 7 (2014): 2356-2368.









 

 

コメントを残す

すべてのコメントは公開前にモデレートされます